サイトハウンドについてまじめに考えるブログ
2008.02.20.Wed Shahrayar犬舎 その4

今回はShahrayar犬舎による「犬への先入観とサルーキーの実態」について。

■ 先入観 その1「幸せな犬は太めでなければいけない?」
サルーキーをはじめサイトハウンドの姿はその体型からとても目に留まる、都市部においてはナニをさておいても非常に見慣れないものである、と約半数の人間がそう感じるらしい。
つまり道端で二人の人間とすれ違えばそのうち一人はサルーキーの持つ見慣れないその姿に話しかけてくるというものである。
この犬種のスタンダードでは「肋骨3本が見え、6本は手で触って分かること」とある。

■ 先入観 その2「犬は服従的でなければいけない?」
サイトハウンドを躾ける事は可能である。
その際躾ける側に他犬種の場合よりももっと忍耐と犬のモチベーションを揚げることが要求されると同時に犬に対しての期待を大幅に下げなければならない。
サルーキーはけっして情熱的な「レトリーバー」でもなく、むしろほとんどの事項においてシェパードなどと全く逆の性質を持つと言っていい。
一般的な犬の学校などに通う場合、一定の「反抗期」と呼ばれる時期まではとてもよく楽しめるが、その後しばらくの間は一時的に休憩することを私達は薦めたい。
1歳半から2歳頃になればまたトレーニングに対してのやる気が戻り、コマンドも良く覚える時期がやってくる。
同伴犬試験に挑戦するもよし、アジリティやその他のドッグスポーツ(フリスビーなど)はとてもよい気晴らしになるだろうが、確実にいえるのはこの犬種はオビディエンストレーニング(服従訓練)のために生まれているのではないということである。

■ 先入観 その3「サイトハウンドは他犬種より多めの運動量が必要?」
Yes: サイトハウンドは走ることが好きな犬種である。
No: サイトハウンドに限らず他の犬種でも同様に日に3時間散歩をすることを望んでいるはずである。
朝・昼・晩それぞれ1時間、通勤途中と就寝前にさらに近所を一回り、週末には野・山・湖をかけまわり、気が向いたときには自宅の庭でが理想的。

■ 先入観 その4「サイトハウンドにとって自転車引き運動はつまらない?」
3時間自転車に沿って一定スピードで走り続けることはサイトハウンドにとっておそらくしんどい割にはとてもつまらないものであろう。
というのもそもそもこれらの犬種は静状態からの全力疾走、そしてまた立ち止まり周辺を見回すことを好むからだ。
これは「Sit and Shoot」と呼ばれるスプリント・スタイルである。
愛犬とサイクリングを楽しみたいと考える時には自転車の後部に愛犬用のワゴンを取りつけ、ツアーの途中で走る気のなくなった愛犬をはいつかまた自発的に走りたくなるまでワゴンの中で休ませるなどのトレーニングをお薦めしたい。

■ 先入観 その5「柵のないフィールドでのノーリード運動は不可能?」
サイトハウンドは動くすべてのものに興味を持つ犬種であり、通りすがりの自転車やジョギング中の人、走り去ってゆく子供、飛んでくるボール、猫、馬、ウサギ、リス、落ちてくる葉っぱ、買い物袋にスカート、鶏そのほかの小動物、長いロープにズボン...とこれらが傾向的に獲物とされるものである。
ただしトレーニングがなされていない場合の話。
もしも愛犬に呼び戻しトレーニングがなされており、愛犬の興味をそらす術を知っているならば柵のないフィールドでのノーリード運動は可能である。(
トレーニングにはロングリードや乾燥レバー、口笛などが駆使されるが強い忍耐力も欠かさず持つことにより呼び戻しは可能になるが、道路に近い場所でのフリーランはいかなる場合にも避けるべきである。

  ※ 例え呼び戻しトレーニングがなされていてもサイトハウンドは訓練系の犬とは違い、常に100%信用
   できるものではないと言うことを必ず念頭において欲しい。
 

(つづく)

       Shahrayar Chadifa
                            Shahrayar Chadifa





2008.02.17.Sun Shahrayar犬舎 その3

今回もドイツのShahrayar犬舎の持つサルーキーへの思いを綴った続きである。
健康とはただ体が病気に犯されていない状態のみを指すわけではなく、この犬舎では精神面での健康を
重視されるべきであること、さらには愛犬の心身の健康を保つ際に重要な飼い主との関係を築くための
大事なアドバイスが書かれている。

この犬舎の持つ<ブリードの目的><能力><容姿の美しさ>に対する考えは過去のエントリーを
参考にされたし。

                        ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


<健康について>
サルーキーは何百年、何千年にもわたり多犬種に見られるような股関節形成不全(例:ジャーマンシェパード)や聴覚機能不全(例:ダルメシアン)、進行性網膜萎縮症(例:レトリーバー)などの遺伝疾患が発生しないよう細心の注意を払ってブリードされてきた。

サルーキーはそもそも健康な犬種である。

しかし他犬種同様に注意しなければならないことは「生活のリズムに慣れさせること」、これは飼い主に
とっても同じことが言える。
胃捻転を防ぐため食餌の後には飛んだり跳ねたりさせないことをはじめ、当然のことながら健康な生活
には欠かせない予防接種に関しても私達の仔犬は血統書・ブリード年鑑を手渡すと同時に今後の予防
接種を続けてゆくことを譲渡先に薦め、駆虫に関しても仔犬の段階で済ませ、健康な仔犬を新しい
家庭に受け入れてもらうようにしている。
仔犬を受け入れた後は緊急時に備え近所の動物病院を知っておき、また手術とホメオパシー療法に
ついて詳しい専門医を何件か知っておくといいだろう。

サルーキーの精神面における健康性を保つためにこの犬種は檻の中で飼うことには向いていないと
いう事実を頭において欲しい。
サルーキーは砂漠の犬であり、世界の広大さと自由とは何を意味するかその血の中に知っている。
もしもサルーキーを狭い空間に閉じ込めて飼ったり、もしくは庭やフィールドでの毎日の自由運動を
不可能にするならばあなたはサルーキーの小さな魂を殺すことになる。

サイトハウンドと人間との信頼関係についてはサイトハウンドファンを除いて一般的に軽視されて
いるが、サルーキーを含むサイトハウンドは自身の身の安全を寄せることが出来る、本当に信頼できる
人間をほんの1−2人だけ選び出すことを私達は経験的に知っている。
それ以上の数の人間は彼らにとって友好的な存在として認識されはするが、群れとして仲間としての
属性を分け合うことはない。
このことよりサルーキーの留守番トレーニングとは細心の注意を払っての躾と言うことになる。
アドバイスとしては留守番トレーニングは早くとも生後6ヶ月以降始めることを薦める。
つまり慣れた環境の中で数分から15分程度までを最初の段階とし、生後一年を過ぎるまで8時間以上の
留守番をさせることはいかなる場合にも薦められない。
これらに無理をすると犬は取り残されることに不安を感じ、その表現として周辺環境を汚したり他の問題
行動を取ることが容易に予想されるからだ。

残念ながら人間の場合は犬との生活変化に対して順応が早く、しかしサルーキーの場合生活環境への
順応は1年近くかかることも少なくない。
サルーキーとの生活を考えている方は犬を問題視する以前にどうか必ず自身の生活リズムと環境をもう
一度見直して欲しい。
もしもサルーキーが周辺環境に慣れ、留守番と言う行為がほんの一時短い時間だけ群れが家を不在にする
ことや「車」と言う犬小屋を番することと理解したならばこれらの障害はすべて解決されるが、その際どれ
だけトレーニングが工夫され愛犬の心理が汲み取られているかにもよるだろう。

さてサルーキーの胃袋は基本的に過敏でもひ弱でもなく、ぴかぴかの健康体の一例として挙げられる。
仔犬時代の食餌法としては仔犬に関する本などを参考にすることにより自身で勝手に考え出すよりも多くの
安全性と安定性を得ることが出来る。
成犬になってからは世の中にあるありとあらゆる食餌法の中から自身の愛犬に対する愛情を元に選び
出せば多くの正しい食餌法を見つけることが出来るだろう。

そしてあなたの愛犬があふれるほどの喜びと充分な運動それに加えあなたへの注目と家族としての認識を
持ち合わせることが出来ているならば、あなた自身サルーキー・フレンドとして誇りが持てる存在である。

(つづく)

         Chadifa und Chaila
                       Shahrayar ChadifaとChaila





2008.02.14.Thu Shahrayar犬舎 その2

Shahrayar犬舎にとって最初の台雌「ビントゥ」はドイツのサルーキーブリーダーではすでに老舗の
mata sala mata犬舎の出身である。
そしてその交配相手の「ウッスーリ」はやはり老舗のMin Ma Sha犬舎の出身。
この2頭の出身犬舎は同じ北バイエルン周辺に位置するにもかかわらず、これまで全く違ったブリード
ラインを保ってきた。
お互いに海外諸国にも目をむけ、国内のみでなく多国のブリーダーとの交流を続けてきたのである。

これらの血の健全性と犬の持つ能力・美しさに長年魅了されてきたShahrayar犬舎オーナーの
ライヒェルト氏は自ら4人の子供を持つ父親であるため子育てが一段落した8年前よりようやくこれまでの
想いを実現化しはじめたが、その際には繁殖犬出身犬舎双方の指導と協力を充分受けていることは
いうまでもない。

両犬舎の意向も受けてライヒェルト氏はブリーダーとしてサルーキーの持つ能力についてこう語る。

                        ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<能力について>
ブリーディングの段階で犬の血統に充分配慮がなされ、両親犬と祖父母犬の能力成績が充分考慮され、
さらには個体を自身の目で見て判断出来るならば、レース向きの犬はショー向きの犬または家庭犬としても
優秀な個体と同じくらいブリードが可能である。


<容姿の美しさ>
このサルーキーという犬種において私達の目に美しいとされる特徴として足長の骨格、エレガントなヘッド
ライン、コートカラーとその質、耳・尾・四肢の後部に見られる飾り毛が挙げられる。
犬種のスタンダードはFCIのブリーディングブックに規定され、それに従わなければならないが、
そこで明らかなのはその理解の仕方、つまりブリーダー毎にどのポイントを重視するかである。

個体の持つ高い能力と容姿の美しさの両方を同じバランスでブリーディングの目的とすることは必ずしも
容易なことではない。
ブリーダーとして犬種の一部の特徴のみをセレクトし重点的にブリードすることは「狩猟能力の高い
サルーキー」と「ショードッグとしてのサルーキー」を二分化する危険性を高める。
つまり一部の特徴のみを重視してセレクトすることで常にサルーキーの外見は変化してしまうことになる。
これらの理由によりドイツ・サイトハウンド・ブリード・アンド・レース協会のとあるサルーキーブリーダーは
こう警鐘を鳴らしている。

『最近見られるショー・サルーキーの大袈裟な後肢のアンギュレーションとともに、広すぎる胸幅、
強すぎる前胸部とそして伸び行く首の長さはジャッジへのアプローチとしてとても印象的だが、これらの
姿は原産国のサルーキーからは全く著しくかけ離れた容姿である。
もしもこういった傾向の増大によりサルーキー個体の秘める能力に対する可能性が抑えられても決して
不思議ではない。』
(ドイツ・サイトハウンド・ブリード・アンド・レース協会刊「ブリード年鑑第38号」より引用)

もしもサルーキーが容姿の美しさだけを選択基準としブリードされてゆくならば、その遺伝子は
容姿のみならず知的能力と狩猟能力へも影響を与える。

サルーキーにとっての「能力」とは彼らの持つ身体的な能力を最大限に発揮できるための「賢く前方を
見据える目」と「俊足」を意味する。
サルーキーとはそもそも狩猟犬であり、彼らの存在価値は生きてゆくに不可欠な素晴らしい狩猟本能に
より作り上げられていることを私達は決して忘れてはいけない。

サルーキーはフィールドを静かに集中して見渡し、素早くそして自分で決断し、自ら選び出した獲物を
その俊足を駆使して追いかけ、捕らえることが出来る。

こういったこの犬種が備える狩猟能力は現在ドッグレースやコーシングなどでダミーを追いかけさせる
ことにより少なくとも狩猟本能の一部を満足させることが出来るのである。

もしも飼っているサルーキーを無限のフィールドで走らせるとき、もちろん呼び戻しトレーニングや気を
そらせるテクニックなどを使ってその狩猟本能が発揮する場を回避することが出来るが、しかしそれは
常に100%信用できるものではない。
飼い主の監視の元でサルーキーにフリーランを与える場合、飼い主自身が周辺に気を配りサルーキーの
興味の対象となる狩猟シーンが展開する以前にタイミングよくリードにつけるか、または狩猟行動が
終わりいつかまた自発的に飼い主の元へ戻ってくることを祈るしかない。

果たしてサルーキーがよく知り尽くした環境の中で自発的に戻ってくるか否かはいまだ疑問視されている
部分が多いが、少なからずどこに車を停めたかや先程休憩をした場所、そして自分の家のある方向に
向かって戻ることは出来る。

この犬種にとってフリーランはとてつもなく大きな喜びであり、それは見る側にとっても同じである。
しかしフリーランにより時折狩猟が成功するリスクも忘れてはならない。

(つづく)

               Shahrayar Bengala
                          Shahrayar Bengala





2008.02.11.Mon Shahrayar犬舎 その1

2007年11月末にボダイの妹ベンガラ(血統書名 Shahrayar Bengala)が初めての出産をした。
D-Litter、つまり犬舎にとって4回目の出産である。

  ※ ドイツのブリーダーはおもに出産回数をアルファベットで数え、生まれた個体はその回数に当たる
    アルファベットを頭文字に名づけられる。
    例:Bo'dai → B=2回目の出産


それを期にShahrayar犬舎はかねてより準備を進めていた犬舎を紹介するホームページを公開し、
そこに犬舎の持つサルーキーへの思い、ブリードのモットーなどを掲載しているのだが、これらはとても
共感する部分が多いだけでなくサルーキーという犬種の繁殖において忘れてはならない大事な思想が
ふくまれているのでここに紹介することにした。

                        ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<ブリードの目指すもの>
私達が目指すもの、それは「ゆるぎない健康」「高い能力」「容姿の美しさ」という3つの響き。
そしてこららは常にこの順位で重視される。

サルーキーはその犬種の特徴として慎重さを持ち合わせながらも人に対して友好的かつ静かな存在で
あるべきで、極端に引っ込み思案だったり怯えがひどいなど神経質で不安定に作用する性格はいかに
その容姿が美しくても私達は繁殖には用いたくない。
私達のサルーキーは人間家族と同じ生活環境で育つことにより日常生活にあるPC・電話・掃除機などの
家電による騒音に慣れ、子供達やその友達と一緒に遊ぶことで社会性を養い、また子供ながらの愛情の
ある雑な遊びの種類をも覚えて育つ。
もちろん周辺環境が性格のすべてを決めるわけではないので遺伝的な要因を選択することが同じくらい
重要となるのである。

私達はできるだけ遠縁のブリードラインを選び新鮮な血を血統に受け入れることに注意を払う。

『犬種の持つ遺伝的バリエーションを保つため、あらゆるタイプの近親交配を避けるだけでなく、
チャンピオン犬同士やいわゆるエリート犬同士でのみのブリードをも避けるべきだと遺伝学者は主張する。
チャンピオン犬同士のみのブリードは遺伝子の多彩性を制限し、例えば限定されたコートカラーのみを
選択的にブリードすることと同じである。
  − 中略 −
これは繁殖に用いる雌犬に限ったことではなく、むしろ多用することにより遺伝子の均一化を加速化
させる雄犬に「スーパードッグ」を用いないことでも避けられることである。』
(ドイツ・サイトハウンド・ブリード・アンド・レース協会会報誌「ウンザレ・ヴィンドフンデ」07年2月号より引用)

この基本に則って私達のサルーキーはブリードされる。
だから私達の最初の台雌「ビントゥ」は3回のみの出産に終わり、この先二度と繁殖に用いることはない。

  ※ Kyoko注: 動物愛護の視点より協会規定による繁殖制限は「雌の繁殖への導引は4回を超えては
    ならず、また最後の出産で満8歳を超えてはならない」とされている。さらには出産間隔についても
    規定あり。


私達は交配相手として候補に上がりそうな雄犬と全国のドッグショー会場巡りにより知り合うだけではなく、
その犬の持つ近縁度も可能な限り低いことを知るため、他の、サルーキーについて同じような意見を持つ
ブリーダーたちとも友情を通して協力し合っている。

(つづく)

           Bengala auf der Ausstellung
                   ベンガラと犬舎オーナーのライヒェルト氏






2007.06.20.Wed サルーキーの健康と疾患について 2

2004年にドイツ・サイトハウンド・ブリード・アンド・レース協会が会員であるドイツ国内のサルーキー・ブリーダーと飼い主に向けて行ったアンケートがある。
アンケート内容はサルーキーの飼われ方や食餌の内容、運動のさせ方、躾の方法といった一般的なもののほか、特に興味深かったのはこれまで飼ったサルーキーの死因と既往疾患についてであった。

このアンケートによると52件の回答の死因の第一位は事故(7件:うち1件猟師による射殺)、第二位に癌(6件:卵巣癌、乳癌、腰椎癌、扁桃腺癌など)、第三位が心不全(5件:うち2件ほど突然の心臓停止)となっている。
以下、自己免疫病や血行不良(高齢犬)、腎疾患(若い犬)、肝炎が単発で発症、さらに2件ほど麻酔により死亡している。

既往疾患でも第一位は事故による傷害(4件)、続いて第二位が心疾患(3件)、以下アレルギー、呼吸器疾患、甲状腺機能低下症、肝・腎疾患、麻酔の後遺症、糖尿病、子宮膿炎が1−2件づつ報告されている。

このアンケートはあくまでも会員に向けて行われたものだから、会員以外のサルーキーではまた少し違って上位三疾患が入れ替わるかもしれない。
それにしても走っているときには周りのものが目に入らないサルーキーだから、事故ばかりは飼い主の側が充分注意したいものだ。



2007.06.14.Thu サルーキーの健康と疾患について 1

近頃日本でも「サイトハウンドはヘマトクリット値が高い」と言うことが徐々に知られてきたが、
果たしてサイトハウンドはヘマトクリット値だけが高いのだろうか?

一般に言う犬の血液検査の正常値とはあくまでも多くの犬種の検査値をより集めおおよその平均値を取ったものであり、これらが必ずしも歴史が長くかつ希少犬種のサイトハウンド達に当てはまるとは限らない。

犬種としてのサルーキーに傾向的に見られる疾患と診断の際の生理的正常値について調査を続けているアメリカの非営利団体「SALUKI HEALTH RESEACH」がある。
この団体はサルーキーを愛する獣医師達により構成されており、犬の専門家としてそしてサルーキーを知るものとして健全なサルーキーのブリードを目指しとても深い見解を示している。

また団体代表のMaryDeeSist博士は「飼い主自身がサルーキーの健康について知り、サルーキーを知らない獣医師に自ら知らせる必要がある」という。

この団体では現在サルーキーのアメリカ国内での血液検査正常値についての調査を継続して行っているが、論文としての発表を控えているためネット上での公開は行っていないかわりに、個人的に興味のある方のために問い合わせに応じるサービスを行っている。

参考までに以下に我が愛犬ボダイの今年の血液検査の結果を一般の犬の正常値と比較したものを公開する。

■ 名前: Shahrayar Bo'dai
■ 生年月日: 2001年2月18日  出生地: ドイツ
■ 性別: ♂
■ 血液検査: 2007年4月
           犬一般正常値      Bo'dai
 WBC G/l      6 - 12        5,5   L
 RBC T/l     5,5 - 8,5        9,52   H
 HGB g/l     132 - 190       207   H
 HCT %       40 - 55        62,7   H
 MCV fl       60 - 77        66
 MCH pg      21- 27        21,8
 MCHC %      32 - 36        33,1
 PLT G/l      150 - 500      225
 Stab %      0 - 4          16   H
 Seg %       55 - 75        60
 Lym %       13 - 30        18
 Eos %        0 - 6         4
 Mono %       0 - 4         2

この結果を見て他犬種では「低白血球症」だとか、「高赤血球症」だとか、はたまた「高ヘモグロビン血症」だとか診断されるだろう。
しかし、サルーキーではこれらすべて正常なのである。
また血小板数もサルーキーでは少なめであり、全体的に血液検査診断要素のほとんどで他犬種とは異なる特徴を見せる。

さらに団体の調査によると現在アメリカのサルーキーによく見られる疾患として遺伝性または癌からの転移による心疾患や悪性血管内皮腫(=血管肉腫、診断時疾患率3割の可能性!!)が挙げられており、これまでよく言われてきた「遺伝疾患がない犬種」だとか「丈夫な犬種」などと言う話はもうあてはまらないことを示している。

一方でサルーキーの血液検査結果の特徴を知らない獣医師により間違った診断が繰り返されていることも指摘されている。
この間違った診断の代表として「甲状腺機能低下症」がある。

甲状腺機能の診断の際には数種類の甲状腺ホルモンを測定するが、団体の調べでは最も重要な診断要因であるT4がサルーキーでは他犬種よりも低い値を示すのが特徴だそうで、この事実は原産国のサルーキー(デザート・タイプ)でも同じ傾向を示すため、まさに犬種全体の特徴といえる。

しかしこれを知らない獣医師では「T4の低下=甲状腺機能低下症」と診断し、飼い主に治療を薦めることが多い。
(少し考えれば気が付くことなのだが、甲状腺機能低下症は発症するまでの時間が長く、また発症後は体の代謝機能低下のため犬の体は肥満傾向を示し、脱毛や倦怠感などもあわせて観察されるはずなのだ。)
間違った診断の結果、間違って治療をされ、投与された薬の効果によってかえって本当に病気になってしまうケースも少なくない。

最後に別の団体の見解では多くの犬種で遺伝病として問題になっている進行性網膜萎縮症もこの先サルーキーで問題として上がってくるとされていることを付け加えておく。

これらの遺伝病を防ぐ手はただ一つ、モラルと正しい知識による良識的なブリーディングあるのみである。



2007.04.05.Thu mata salamata's Saluki

mata salamata'sは74年よりサルーキーのブリード(と一部アフガンハウンドのブリード)を手がけてきた犬舎である。
犬舎オーナー、ウテ・レンナーツ女史とヤコブ・プリビル氏のサルーキーへのこだわりの姿勢はこの犬舎が生み出してきた数多くのチャンピオンに見られる。
この犬舎出身のサルーキーからは州・国内チャンピオンのみにとどまらず、インターナショナルそしてヨーロッパ、80年代から90年代にかけては数頭の世界チャンピオンが生み出されている。
さらにはオーナー自身FCIのスタンダード作成を手がけ、2003年にドルトムントで行われたワールド・ドッグ・ショーにおいてレンナーツ女史はサルーキーのジャッジを務めたと言うのも当然のことかもしれない。

その歴史の一方でこの犬舎はmata salamata's系と呼ばれる系統をつくりあげ、特にmata salamata's Aga Khan(90年世界CH)と Bell S'MBran J.R. Juvenoir(マルチチャンピオン)の仔mata salamata's Jadaan Khanは父親同様に94年の世界CHのタイトルを獲得した後、国内4回国外3回計7回の交配で40頭の仔を残し血統を広げている。
我が家の愛犬ボダイの4代前と5代前にはこのAga KhanとJuvenoirの名があり、mata salamata's系の血を見た目に濃く受け継ぐボダイは森やドッグショーなどで見知らぬサルーキーオーナーから「mata salamata'sの?」と聞かれるほど典型的なmata salamata's系の顔・体つきをしている。
たしかに片手間で繁殖されたサルーキーたちに比べると体格の均整が取れ、穏やかながらも自信に溢れたバランスの良い顔つきをしているのがmata sala mata'sの特徴であると感じる。

          Shahrayar Bodai

mata salamata's自体はホームページを持たないが、ドイツ国内外にこの犬舎の血は多く交流しているためネットを通してボダイの親戚従弟達の姿がいろんな国で見られるのはとても興味深い。
犬の繁殖・血統管理がシステムとして確立されているからこそ、それは可能なのである。

                     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

AKC, KC、FCIのサルーキー・スタンダードを比較考察したサイトハウンド協会会報誌の記事でレンナーツ女史はスタンダードを手がける立場としてAKCの「色のバリエーション」の許容の狭さを指摘し、またどのスタンダードも「鼻の色」が黒またはレバー色であるべきでいわゆるバタフライ・ノーズ(鼻の真ん中がレバー色、両脇が黒の二色に分かれている鼻)はスタンダード外であるという。

彼女の主張とは「サルーキーのスタンダードはその犬種の歴史を重視するべきで、スタンダードを元にブリードされるのではなく、サルーキーの本来の姿に基づいてスタンダードが作られるべきである」というものであり、私自身全くの同感である。
サルーキーやスルーギー、アザワクのように歴史の古い犬種にとって1900年代に入って原産国より輸入されたたった数頭のサンプルを見て作られたスタンダードはあまりにも視野が狭く、本来原産国に存在する犬種のバリエーションをカバーしきれていないのが多くの場合であり、その犬種の歴史に敬意と配慮をもたらさなければ全く持って本末転倒である。
こういった経緯からAKCの古びたスタンダードは見直されるべきと女史は言う。

またヨーロッパのドッグショー界ではオーナーハンドラーが当たり前のため、ジャッジはハンドリングのテクニックよりも犬を見る。
そしてジャッジ自体も多くの場合ブリーダーなのが普通である。
自分でサルーキーを手がけ、サルーキーを知り尽くした者たちだけが作る独特の世界であるともいえるだろう。

レンナーツ女史がこの度サルーキークラブ展のジャッジを通して日本のサルーキーと対面し、どのような印象を受けたかいずれ機会があれば尋ねてみたい。



2006.10.11.Wed スムース・サルーキー 2

アメリカでのスムース・サルーキーの歴史は40年代にまでさかのぼる。
40年代の終わりに二頭の母子スムース・サルーキーがチャンピオンになっており、母犬Lady Yeled Sarona Ramullah はアラブのイブン・サウド王からイギリスの元帥ヘンリー・M・ウィルソン候に贈られたシリアの砂漠地帯で生まれたサルーキーであった。

その後再びスムース・サルーキーへの関心が起こるまで実に四半世紀が費やされ、70年代に入ってSedeki Talataの仔であるSedeki DunishkとGhaza(ハワイで最初のスムース・サルーキー)、そしてTalataの最初の仔でスウェーデンに渡り北欧スムース・サルーキーの基盤となったSedeki Taniの仔Azadi ZanabdeがアメリカのSrinagar犬舎に入りアメリカのスムース・サルーキー・ブリードに多大なる影響を与えた。

一方、オーストラリアでのスムース・サルーキーの歴史は73年にNishapur犬舎がイギリスのMazuri犬舎から譲り受けたオスのMazuri Mejim of SedekiとメスのSedeki Esteから始まった。
その後アメリカ・カナダを経てTalataの子孫が輸入され、オーストラリア生まれのスムース・サルーキーチャンピオンとしてBaghdad Desert Dreamerとその異父兄弟であるBaghdad Desert Descendantが生み出された。

さて、ドイツのスムース・サルーキーの歴史は80年代後半になってSawahin犬舎がアメリカから輸入したZahra Du Zada of Conamorに始まり、この犬の持つずば抜けた成績にこれまでスムース・サルーキーに不慣れであったドイツのサルーキー社会は度肝を抜かれ、そしてようやくスムースタイプを好んで受け入れるようになった。
88年にこのZaharaからドイツ最初のスムース・サルーキー・ブリードが始まって以来、途中でポーランド在住のイギリス人ブリーダーの元から血統であるMuluki Faroukが加わり、これまでに約100頭近くのスムース・サルーキーが国内で生まれているが、いずれも片親のみがスムースタイプであり、両親ともにスムースタイプのブリードはいまだ行われていない。
そしてどのスムース・サルーキーもイラクからの血を受け継いでいる。

ショーリングの上でスムースタイプは短毛がゆえにフェザータイプよりも厳しく採点される。
耳の付き方や胸の深さ、足指の長さなどフェザータイプでは飾り毛に隠されているために、スムースタイプでは見た目に少し違った印象を与えがちで、結果としてよりスタンダードに沿って審査が行われる。
もちろんそこにジャッジの経験も加わるため、ジャッジ自身がスムースタイプを見る目が養われていなければならない。

遺伝学的に毛色を決める遺伝子が多く存在する中、毛の質を決める遺伝子はひとつであり、このひとつの遺伝子によりサルーキーがフェザータイプであるか、スムースタイプであるかが決まる。
そしてサルーキにおいてスムースタイプの遺伝子は優性として遺伝するので、たとえ飾り毛の少ないフェザータイプのサルーキーでも「4分の1スムースタイプが現われている」などという中途半端な表現型などではなく、明らかにこの場合フェザータイプのサルーキーである。
飾り毛の長さは毛質を決める遺伝子の他に存在する「飾り毛の長さを決める遺伝子」によって左右され、また毛質の遺伝においては「白または黒(長いか短いか)」どちらかである(=中途半端な長さはない)ということを忘れてはいけない。

このことより、スムースタイプのサルーキーが生まれるためには少なくとも片親がスムースタイプであること、また両親犬が表現型としてスムースタイプであっても遺伝子型としてフェザータイプ(劣性)を持ち合わせる場合、生まれた仔の中にフェザータイプが出てくる可能性があること、そしてスムースタイプを両親として生まれたフェザータイプのサルーキーからはスムースタイプは生まれないことがいえる。

しかし米英さらにフィンランドのスムースタイプ・ブリードの中にはフェザータイプの両親犬から生まれたスムースタイプのサルーキーがいる。
これは一連の遺伝子の突然変異(ミュータント)として例外視され、またこの突然変異性は自然界でもショートヘア・アフガンハウンドなどのように極稀に見られる現象である。
ちなみにこれまでに登録されているドイツ国内五千頭以上のサルーキーブリードの中でも一度も見られたことのない例である。

スムース・サルーキーはフェザータイプに比べ極度に短いシルクのような被毛とそして少し太めの短い被毛を持ち合わせる。
全身を短い被毛で覆われているためにスムースタイプでは快適と感じる温度がフェザータイプよりも少し高い20度以上であり、動かずにジッとしている状況ではすぐに震えだし、春先のオープンエアーでのショーリングなどでは寒さから膝や背中が丸くなり審査にマイナスポイントを与えかねない。

またスムースタイプを繁殖に用いる場合、その存在数の少なさから将来的に受け継がれる犬種としての特徴や血縁に欠点があってはならず、ブリーダーにはフェザータイプ以上の責任がのしかかってくる。
ブリーダーは最低条件として犬の両親犬とその先祖を直接目にすることまたは少なくとも写真や映像で見てその犬の血統と骨格の健全性を確認しなければならず、同じ短毛サイトハウンド犬種のスルーギーやアザワクとは明確に一線を引いた特徴を備えることを忘れてはいけない。
(これはスルーギーとアザワクのブリーディングにもいえることで、それぞれ犬種として骨格の形成が大きく異なるのである)



2006.08.21.Mon スムース・サルーキー 1

サルーキーにはフェザータイプとスムースタイプの2つのバリエーションがある。
フェザータイプは耳・前肢・後肢そして尻尾に飾り毛を持ち、
スムースタイプはこれらの飾り毛がない全くの短毛である。

世の中の多くのサルーキー・オーナー達はこの歴史的に重要な役割を果たすスムースタイプの存在をあまり知ろうとはせず、時には理解しがたいものとされてきた。

スムースタイプは現在ではAKC、KC、そしてFCIのスタンダードにおいて統一的に「(解剖学的)特徴はフェザータイプと同様であるが、飾り毛を持たない」とされている。
勘違いしてはいけないのは、スムースタイプとは遺伝的にフェザータイプとは異なる表現型の一つであり、決して「飾り毛の少ないフェザータイプ」のことではない。
もしも耳の上部半分のみ長めの毛で覆われている場合、それはただ単に「飾り毛の不十分なフェザータイプ」と表現されるのである。
欧米先進国にある「飾り毛は長ければ長いほど美しい典型的なサルーキー像である」という奇妙な先入観のおかげで、原産国周辺では圧倒的にスムースタイプの個体が多いのにもかかわらず、スムースタイプはこれまであまり愛好者を増やす機会がなかったといっても良いだろう。


70年代当時、スムースタイプはその知名度と認識の低さから先進国進出のチャンスを大きく逃した。
オリエンタル系の短毛サイトハウンド種を好む人間はスムースタイプの存在に気が付かず、同時に近縁種であるスルーギーとアザワクの輸入に力を注いだのだった。
その甲斐あって2003年にはスルーギーの累計1230頭、アザワクでは550頭がドイツ・サイトハウンド協会に登録されている。
USAではいまだにスルーギーとアザワクの犬学的な区別論争が治まり切らない事から、これら二つの犬種の繁殖はあまり盛んに行われていない。
しかしフィンランド、スゥエーデン、ノルウェーの北欧諸国では20世紀後半に行われた検疫制度の改正に伴い、これらの新犬種を原産国から導入することに懸念を示し、同じくオリエンタル系のサイトハウンド種として既存のサルーキーの短毛種(スムースタイプ)を選んだ。

       Smooth 1

        CH Zandokhan Sawahin

Serona Kelb、これがイギリスKCにおけるサルーキーのスタンダードの元になった犬の名である。
あまり知られていないことだがSerona Kelbは飾り毛の豊富なブチ模様の父犬とちいさなグリズルカラーのスムースタイプの母犬から生まれた。
このことからだろう、イギリスKCは当初からサルーキーのスムースタイプについてスタンダードの中で言及していた。

Serona Kelbはシリアの生まれである。
しかしサルーキーの原産諸国である中近東からいくらスムースタイプの情報が先進国に流れてきたところで、これらを管理している正式なスタッドブック(繁殖の記録)がこれらの国々にはなかった。
現在先進国の中でスムースタイプはUSAをはじめスカンジナビア諸国、イギリス、オーストラリアで繁殖され、15年ほど前からフランス、チェコ、スイスそしてドイツなどのヨーロッパ諸国でも(再び)その姿を見かけるようになった。

上記で(再び)と書いた理由には、記録によると1929年にすでにドイツに数頭のスムースタイプが原産諸国から輸入されていたという記録があったからだ。
当時スムースタイプであることの表記が統一されていなかったため、確認できるだけで4頭ほどのスムースタイプがいるが、実際にはもっといたであろうと考えられる。
4頭のうち3頭はイランから、もう1頭はバーレーンからの輸入である。
これらのサルーキーたちは特に繁殖に用いられることなく、その記録が途絶えている。

イギリス、スカンジナビア諸国とUSAにおけるスムースタイプの歴史を辿ってゆくと、Sedeki Talataとその母犬Sedeki Mazuri Varahに行き着く。
TalataのブリーダーはDon WiedenというSedeki犬舎の持ち主であり、スムース・サルーキー・ブリードの創始者といっても良いだろう。
1962年に彼は犬舎最初のスムースタイプMazuri Varah(レッド♀)をイギリスの有名犬舎Mazuriから譲り受け、その後彼のブリードしたスムースタイプは世界各国のスムースタイプブリードの基盤となった。
Mazuri犬舎はGwen Angelをオーナーとするイギリス最古のサルーキー・ブリーダーのひとつに数えられ、Don Wieden以前にスムースタイプを飼っていた。
また1920年代当時イギリス軍将校の F. Amherstと旅団総長Lanceによりサルーキーという犬種がイギリスに輸入された際、少なくとも両者のうちどちらかがスムースタイプを連れていたという記録もある。

       Smooth 2

        left: Multi-CH Yazarah Sawahin
right: CH Zandokhan Sawahin


Sedeki Talata、♀、1965年3月18日生まれ、レッド、スムースタイプ。
 父犬: Sedeki Mazuri Badeschah、ブラック&ホワイト・パーティー、フェザータイプ
 母犬: Sedeki Mazuri Varah、スムースタイプ

Badeschahの母方祖父母はいずれもスムースタイプであり、父母ともに1957年にイランの富豪からHenderson家への贈物としてイギリスへ輸入された。

Varahの父方曾祖母はイラン出身であるが、Badeschahの祖父母とは血縁関係にない。

Badeschahの両親はイギリスで初めてのスムースタイプのチャンピオンサルーキーKumasi Kommandanを生み出し、このKumasi Kommandanは当時のコーシングフィールドにおいてもズバ抜けた成績を残し、さらにショーにおいてBOBを手にした。

Sedeki Talataとその母犬Sedeki Mazuri Varah、そしてCH Kumasi Kommandan。
イギリスにおけるスムースタイプの歴史はこの2つのラインから始まった。

(つづく)



2006.06.12.Mon 原産国のサルーキー

いろんな犬図鑑にサルーキーの原産国はエジプトだの、サウジアラビアだの、イランだのといろいろなことが書かれているが、果たしてどこが本当の原産国なのだろうか?と頭をひねる人がいるかもしれない。

実際にはこれらの国はすべて原産国である。

サルーキーの歴史はとても古く5千年とも7千年とも言われ、
狼からかなり早い時期に分離した犬はサルーキーとして独自の発展を見せた。
東はカザフスタンから西はモロッコまで、アラブ諸国全土でこの犬は飼われ、
そして持ち前の視力の良さと俊足と持久力で家族の食卓を支えた。

アラブ人にとってこの犬は生きてゆく上で欠かせない狩猟のための武器であり、
そしてその静かさからそのほかのけたたましい犬とは一線を引き、アラブ人はサルーキーを犬ではなく
「アラーの神からの贈物」と称し、家長の隣で寝起きすることを許した。
(一方では家長は家族のものの中で特に女性に関しては必ずしも信用をおいてなかったともいえ、またいつの時代もどの国でも狩猟が男性の仕事である事から猟に必要な「道具」としてのサルーキーの管理は家長自らもしくは男家族により行われてきた)
このようにサルーキーはアラブ人の間では「高価なもの」として代々扱われ、決して金でやり取りされる商品などではなく、サルーキーの譲渡は特別な状況下でのみ行われてきた。
たとえば恩人に感謝の気持ちとして、時には貴族に取り入るために最上級の贈物として、サルーキーは家族の女性たちよりも上に位置づけされ「サルーキーを手渡すくらいならば、娘をやったほうがましだ」とまで言われるほどであった。

厳密に言うとアラブ全土では「サルーキー」とは一般に「サイトハウンド」と同じ意味で使われ、必ずしもFCI公認の犬種「サルーキー」と一致するとは限らない。
ある地域ではアフガンハウンドをサルーキーと呼んだり、スルーギーをサルーキーと呼ぶことが一般である。
またこれらの犬種はそれぞれ昔から掛け合わされることもあり、カザフスタンのアフガンハウンド→ステップ型→ショートヘア・アフガン→タイガン→サルーキー→スムース・サルーキー→モロッコのスルーギーというように西から東に向けて犬種の違いは緩やかな変化を見せ、また犬種の特徴は地理的・気候的条件と一致するのである。

これらのことより古代遺跡の中に多く見られるサルーキーの姿は必ずしもサルーキーではなく、当然スルーギーであったりもするのである。

とりあえずここではFCIで言う「サルーキー」について話を進めよう。

サルーキーが砂漠の遊牧民ベドゥイン族にとってなくてはならない存在であったことは周知の事実だが、実際にベドゥイン族の元で見られるサルーキーたちはヨーロッパやアメリカそして日本などで見られるサルーキーとは外見的に少し違っている。
全体的に飾り毛が少なく(またはスムースが多く)、体格も色もとにかくバリエーションに富んでいるのである。

世界的に見るとこれらの原産国からのサルーキーをコンスタントに輸入している国はドイツ以外には見られない事実がある。
ドイツでは輸入サルーキーの合計がこれまでに160頭以上にものぼり、輸入サルーキー第二位のフランスでは17頭でしかない。
ドイツへの輸出国の第一位はイラン、第二位がサウジアラビア、そのあとトルコ、イラクと続いている。(注釈:ドイツには原産国からの輸入サルーキーを多く手がけているイラン人のブリーダーがいる)
その他の欧米諸国ではどうしているかというと、原産国からドイツに輸入されたサルーキーの子や孫を輸入しており、先進諸国同士でまた血の交換を行っているのだ。
このような現象が起こる背景には、サルーキーの評価が原産国で異なっていることがある。

原産国でのサルーキーは基本的に狩猟のための「道具」であるから、当然犬の持つ能力が問われる。
足が速く、長時間獲物を追いかけることができる強靭な体力を持ち、熱い砂漠の上や険しい道を長い時間走っても傷まないパッドそして獲物を瞬時に発見できる視力、獲物をあきらめることなく最後まで追い詰める狩りへの情熱、病気を知らない健康な体とメスの場合は多産であること、これらを持ち合わせたサルーキーは原産国で「最も美しい」と称され、ほぼ強制的に外見上も美しいといわれざるを得ないのである。

言い換えれば先進国にあるような犬種の外見上のスタンダードというものはここでは全く意味を持たず、飾り毛が少なかろうが尾の先が巻いていようが、毛色がブルーであろうが、その犬の持つ能力こそが第一なのである。
こういった経緯があって前述したようなバリエーションがこれら原産国には存在するのである。
しかしこの歴史的なバリエーションは先進国の犬種スタンダードに必ずしも一致するとは言えず、ドッグショーで評価させるのは難しい。

犬種の歴史あってこそのスタンダードであるはずが、1920年代にほんの数頭サンプルとしてヨーロッパに連れてこられた最初のサルーキーの外見を参考にしたがためにスタンダードは全体を見ずして出来上がってしまった。
それから後何度か改正されるものの先進国のサルーキーは原産国のサルーキーとは全く別のものになり、はっきりいうと本末転倒なのである。

先進国の言い分は「先進国の生活体系にあったサルーキーのブリード」で、「都市型の生活には狩りへの情熱はいらない」という。

多くの先進国ではドッグショーの成績(外見上の美しさ)重視によるあまり犬の本質と健康性を見抜きづらく、将来的に大変危険である。
先進国のドッグショーで成績を得づらい原産国出身のサルーキーはドイツでは主にレースやコーシングで活躍しており、これらの能力を持って繁殖許可を得ることができるようになっている。
先進国のサルーキーの将来を考えれば原産国からの輸入は必須であり、繁殖への評価として当然であるとドイツは考える。

ドッグショーといえば先日面白い話を耳にした。
今年アラブ首長国連邦のドゥバイでドッグショーが行われたが、サルーキーの出頭数は原産国にもかかわらずたったの3頭。
見た目に先進国と変わりないこの3頭、それもそのはずオーナーがすべてヨーロッパ人であった。
そしてそのサルーキーたちのリングサイドにはたくさんのサルーキー連れアラブ人が観戦をしていた。
アラブ人たちは自分のサルーキーをショーに出したりはしない。
ショーというものに何の意味合いをも見出さないからだ。
しかしアラブ人は好奇心旺盛な人種なのである。

彼らはお互い知り合うときに「お前のサルーキーを見せろ。そしたらお前がどんな奴か言ってやるよ」と言う。
アラブ人にとってサルーキーとは切っても切り離せない自分の一部なのである。

余談だがサウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)では国を挙げてサルーキーの保存に取り掛かっている。
これらの国にとって国犬ともいえるこの犬種、日本ならば特別天然記念物とでも言うところだろう。

またUAEの首都アブダビの近くにはアラビアン・サルーキー・センターというサルーキーの繁殖場がある。
これを運営するHamad Al-Ghanem氏は4世代にわたりアラブ馬とサルーキーのブリーディングを手がける家族の中で育った。
サルーキーとともに育ち、サルーキーを知り尽くしたこの人間は、資本主義に揺れ動き変化してゆく世の中でサルーキーの将来を懸念し、家業に国のバックアップを受けてセンターを創った。
ここでは年間40頭程のサルーキーが生まれ、そしてトレーニングを受け国内だけでなく先進国へも譲渡されている。
もちろんここでは伝統にのっとりお手軽なドッグフードなどというものは与えておらず、専用のキッチンには過去国内の5つ星ホテルのレストランで働いていたという調理人がサルーキーの食事を作っている。

昔からここでは「サルーキーの食わないものは人間も食わないほうが良い」というそうだから、
アラブ人にしてみれば当然なのかもしれない。

センターのHPでは数々のサルーキーが自然のまま映し出されている。
この光景はきっと何千年前も変わらないのだろう。
ここでは時間がゆっくり過ぎてゆくのである。


| 20:08 | comments(4) | Saluki |


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